sweets


パシャリ、とフィルムカメラのシャッター音を模した電子音が鳴る。

電子機器のデータには、新しくパンケーキの画像が取り込まれた。

ルージュはそれを見て満足気に微笑む。

その様子を、シャドウは不思議そうに見つめる。

 

「…何してるのか分からないって顔してるわね」

 

視線を感じたルージュが、黒い針鼠の心中を見透かしたように話しかける。

その通りに、彼には、目の前の女蝙蝠がどうして食べ物を食べる前に

写真を撮るのか理解出来なかった。

 

言葉はあえて返さず、黒い針鼠は視線を逸らす。

 

「ま、こういうのは多分アンタには理解出来ないと思うから説明はしてあげないけど」

 

パンケーキが席に届いてから1分以上は経過したところで、ようやくルージュは

ナイフとフォークを手にした。

至極嬉しそうに甘味を頬張る姿は、普段のエージェントとしての役職をもつ

彼女からは掛け離れていた。

 

フン、と鼻を鳴らしてシャドウはコーヒーカップに口をつけた。

 

「ていうかシャドウ、食べるの早くない?ちゃんと味わった?

こんなに美味しいのに、勿体ないんだから」

 

皿とカップを空にしている彼は、無言でガラス窓の外に目を向ける。

その先には、パンケーキで有名なカフェには似つかわしくない、緋色の機械の後ろ姿が。

 

「2時間だ」

 

シャドウは、自分達がカフェの行列に並び、席に着き、

注文したパンケーキが運ばれて、それを食すに至るまでの時間を述べた。

その間、食事の必要が無いロボットのオメガはずっと外で待っていたのだった。

 

それを聞いて、ルージュはフォークを使う手を止めシャドウをじっと見た。

 

「…何だ」

「ふふっ、別に」

 

いつの間に、この黒い針鼠はこんなにひとに優しくなったのだろう。

それから、あの短気なロボットを延々と待たせてしまったお詫びはどうしようか。

そんなことを考えながら、ルージュは甘い生クリームをのせた

ふかふかのパンケーキをまた一口味わった。