ご機嫌取りも楽しみのひとつ
世界のスーパーヒーローでもガールフレンドの前では形無しらしく、
不貞腐れた顔で私に愚痴る。
「そりゃあ、待ち合わせに遅れたのは俺が悪かったけどさ…
こっちはこっちで世界を救うのに大変だったんだぜ?」
私がつい、音速の足でもデートに遅れるなんて事があるんだね、と笑いながら言うと
彼はますます唇を尖らせ「デートじゃない」と一部だけ否定した。
クレープ屋の店員である私は、そんな不機嫌な彼を労う意を込めて、
作っていたそれにたっぷりのイチゴとアイスを乗せて差し出した。
「こんなに贅沢なトッピング、頼んでないぜ?」
「サービスだよ。これで彼女の機嫌を直してあげな」
そう言って私が笑うと、ソニックはぱっと顔を明るくした。
「Thanks!」
流暢な発音で礼を言いクレープを受け取ると、ベンチで待つ桃色の彼女の元へ
颯爽と駆けて行った。
一瞬だけ、クールなヒーローである彼からは中々見られない、
年相応の少年の様な笑顔が見えた気がした。
風のように去ってゆく彼の後ろ姿を見つめてみても、それが幻だったのか
そうでなかったのかは、分からないままだった。