カメラマンと被写体


青い針鼠は被写体になることに慣れているのか、或いは深く考えていないのか、

いつも気前良くポーズを取ってくれるので撮りやすかった。

彼が表紙になる月は普段より売れることもあり、編集長も上機嫌で

僕の提出した写真を採用した。

女子は甘いもので釣れば九分九厘OKが出るし、

男でもその経歴を褒めさえすれば喜んでモデルになってくれた。

 

世界を救うヒーローとその仲間達をレンズの中に収めた回数は、

社のどの人間よりも多いと自覚している。

界隈でも滅多にカメラを向けることを許されなかったあの黒い針鼠でさえ、

各方面の関係者に根を回してやっとの思いで撮る事が出来た経験も誇らしく思える。

(しかし最近は何かしらが緩くなってきたのか、メディアへの露出が徐々に

増えてきたのは少し気に入らない。昔の僕は1枚撮るだけでも苦労したのに!)

 

そんな僕が以前から狙っていた被写体がいた。黒い針鼠と、白いコウモリ

(もちろん彼女も撮った。代価は高くついたが…)の2人とチームを

組んでいるらしいロボットだ。

らしい、というのはそのロボットが姿を現わすのが戦闘時のみなので、

普段はスタジオという名の安全圏でカメラを構えている僕の様な

一般市民とはあまり縁がなく実物を目にしたことが無いのだ。

偶然その場に居た輩がSNSに投稿したものとは一線を画すハイクオリティな作品を

スマートに創るため、どうにかしてそのロボットを撮影したいと思っていた。

 

とりあえずロボットの関係筋として1番近くて話が出来そうなコウモリにあたってみた。

彼女は様々な条件を出した後に

「ま、最終的な判断は本人次第だけど。あまり期待しない方が良いかもね」

と言った。

本人次第?ロボットに人間のような意思があると言うのだろうか。

…いや、彼女のジョークだろう。どちらにせよ、あまり良い手ごたえは

無かったので僕は肩を落とした。

次号の表紙モデルはロボットだと決めていたが、仕方ない。切り替えて僕は

他のモデルを探す作業を進めた。

 

しかし数日後、僕の予想に反してOKサインが出たとの連絡があった。

 

「正直アタシも驚いたわ。どんな心境の変化があったのかは知らないけど、

『許可スル』なんて言って…」

 

彼女はどことなく感慨深そうに、電話越しに語っていた。

もしかして、以前のあれはジョークではなかったのだろうか。

 

兎にも角にも、僕は4日後にロボットを撮影する約束を取り付けることが出来た。

僕や僕以外のカメラマンも出会ったことのない貴重な被写体を、

僕の手で写真に収めることが出来るのだ。

まだ見ぬ僕の写真と、その写真に飾られた雑誌に想いを馳せ、胸を高鳴らせた。

 

そんな想いを募らせた後の撮影日に、僕がロボットとの対話に

死ぬほど苦労したというのは、また別の話。