悪魔に魂を
「頼む、ドクター」
頬から赤い雫を滴らせ、肩で息をしながら黒い針鼠が言う。
彼―シャドウ・ザ・ヘッジホッグは、突如カオスコントロールによる空間移動で
空中要塞のど真ん中に現れたかと思えば、
衛兵を蹴散らし壁を突き破り、最短で最速に制御室までやって来た。
よくも他人の城を荒らしておいてそんな台詞が吐けるわ、と城の主人こと
Dr.エッグマンは一人ごちる。
「まさかとは思うが、その鉄クズをワシに直せと言うんじゃなかろうな?」
白手袋をはめた手が、針鼠が運んで来たそれを指差した。
「ボスぅ、あれは鉄クズじゃなくてオメガじゃないですかぁ?」
四角い召使いロボットが、主人の座る椅子の陰から様子を伺いつつ見当違いなことを喋る。
「バカだなお前、動かないロボットなんて鉄クズと同じだろ?」
同じく椅子の陰に隠れている丸い召使いロボットが、ツッコミを入れる。
E-123オメガ―あらゆる武器を仕込み、全ての技能を戦闘能力に費やし、
最後にして最強の名を与えたロボット。
しかしどうやらこの機械は、今は機能停止しているらしい。
緋色の装甲に穴が空き、配線が剥き出しになっているのが見える。
いつもは排除ハイジョと喧しい発声回路も働いていない。
自軍との戦闘による負傷ではない。近時にこのロボットを相手した記憶はエッグマンには無く、
先程目の前の黒い針鼠が侵入して来た際は衛兵達を一方的に倒され
ひとつのダメージすら与えられなかった。
この究極生命体と最強のロボットをここまで追い詰めたのは何処の何奴なのか。
エッグマンは少しだけ興味が湧いたが、シャドウにはそんな輩の事を
説明している余裕は無かった。
「頼む」
仲間の修理をGUNの技術者やテイルスに頼らず、わざわざ敵対関係にある人物の元まで
訪れているあたり、相当追い詰められているであろう事が伝わって来る。
いや、頼りはしたが、その者達の腕ではどうにもならなかったが故の
最終手段がここだった、が正解かも知れない。
ともあれ、ここで伝えることはひとつ。エッグマンはにやりと笑う。
「そいつを直したら…キサマはワシに何をしてくれるんじゃ?」
「何でもする」
即答だった。
「な、何でも…?」
秒で返って来た言葉にエッグマンは面食らった。プライドの高い彼のことだ、
力技で脅しに来るかもしれぬと身構え、手元の隠しスイッチに指を乗せていた
(ちなみにこれを押すと床に穴が空き、侵入者を外へ排出する仕組みだった)が、
意外にもそれは極めてシンプルな答えだった。
「何でも!?じゃあボクの代わりに掃除当番やってくれる〜!?」
「あっズルイぞ!ワタクシの食事当番も代わってください」
「キサマら何を言うとるんじゃ馬鹿どもが!!」
嬉々として身を乗り出して来たオーボットとキューボットをシャドウは嫌悪の眼で睨み付ける。
「僕はドクターと話している」
威圧感に負けた召使いロボットは再び主人の後ろに隠れた。
赤い瞳が悪の科学者に向く。突き刺さる真摯な眼差しは、
サングラス越しでも痛いほど伝わってくる。
どうやら、この針鼠は本気らしい。
しんと静まり返った制御室に、高々と笑い声が響き渡る。
「ホーッホッホ!!良かろう!!ワシを裏切ろうが反逆しようが、
ぜ〜んぶ巡り巡って最後はワシの手の中じゃわい!!」