サンズの好きなもの


「兄ちゃんはSFとか宇宙とかに目がないんだ。兄ちゃんキサマにその話してないの?」

 

その弟曰く、兄は「現実のSF」の研究に熱心に取り組んでいたという。

外では弟の知らない兄の仲間たちと研究に勤しみ、家では夜眠る前に量子力学の本を

読み聞かせてもらったが1ページ目で寝てしまったことや、

ブーブークッションのイタズラに怒れば「それは別の時間軸の自分の仕業だな」と

笑われたこともあった。

 

弟には、兄の研究している内容を理解するのは難しかった。だが、

「この宇宙にはまだ誰も知らない別の時間を辿る世界があるなんて、想像しただけで

ワクワクしないか?」と目を輝かせて話す兄を見て、それは彼にとってとても明るい、

夢と希望に満ちたものだったということは容易に理解出来た。

 

しかし、ある時期から兄はSFの話をしなくなった。

外出する機会も減っていたのを不思議に思い、研究の方は順調かと尋ねてみれば

「あれはもうやめた」

と素っ気ない返事をして黙り込んでしまったのであった。

 

「…じゃあサンズはもうSF好きじゃなくなったの?」

「そんなことないよ!だって兄ちゃんはまだリョーシリキガクの本も捨ててないし、

家の裏の物置にもいろんなSFっぽいものを大事にしまってあるから」

 

それに、と弟は笑顔で続けた。

 

「兄ちゃんは本当にSFのことが好きだったんだ。あんなに好きだったものを

簡単に嫌いになったりなんかしないってオレさま信じてるからな!」

 

言ってから、弟はふと気付いて顎に手をあて眉間にシワを寄せた。

 

「いや待てよ?兄ちゃんものぐさだから片付けが面倒臭くて捨ててないだけじゃ…?

ねぇキサマはどう思…」

 

顔を上げると、目の前居た話し相手は忽然と消えていた。

 

「あれっ?どこ行ったんだ?フラウィー!おーい!」

 

 

「なるほどね…アイツがボクの力を知っていたのはそういう事だったわけか」

 

「…何の話か、キミになら分かるよね?」

 

 

金色の花がこちらを見て笑った。